アレクサンダー・テクニーク教師、林好子のブログにお越しくださり、ありがとうございます。
前回に引き続き「頭と背骨の関係」についてお話したいと思います。
今回は「頭と背骨の関係」を理解するために、頭と背骨が出会う部分(解剖用語で環椎後頭関節といいます)の形状と動きについて説明します。
まず、環椎後頭関節と呼ばれる頭と背骨が出会う場所は1つではなく2つあります。 一点で支えるように思っておられた方がおられるかもしれませんが、図に示すように左右にある2つの関節面で支えています。
では、その関節面のどのような形状をしているかというと、平面ではなく、カーブを描いています。
ちょうど片方の手のひらを軽く窪ませるようにし、その上に同じように窪ませた反対の手を重ねたような感じで、連結しています。
この関節の形状からどんな動きが起こるか推測することはできますか?
頭蓋骨側が前に上にスライドすると、顔は天井を向くように、後頭部は下を向くように動きます。
逆に頭蓋骨側が背骨の関節面に対して後ろに上にスライドすると、うなずき動作のように顔は下向きに、後頭部は上方向に動くことになります。
頭が平面上を前後にスライドするわけではありません。
頭が背骨の上でバランスを取ることを試みる際に、顎を引くように前後のスライドを意識される方がいますが、環椎後頭関節の関節面の形状や位置を考えても、また背骨の全体の性質を考えても、適切でないといえます。
ちなみに、環椎後頭関節の屈伸運動は角度でいうと15度程度です。
小さな動きですが、頭が背骨の上でバランスを取る上で大切な動きです。
次に、頭と背骨(第一頚椎)の動きを簡易化したモデルで再度考えてみたいと思います。
関節面において頭側(球体)が前方向に動いたとき、頭はどっちの方向に動くと表現しますか?
上? 下? 前? 後ろ?
答えはどれも正解です(笑)
頭のどこを見るかで異なります。
頭の前(顔面)で考えると、上に動いていると言えます。
一方、後頭部でみると、下に動いています。
頭頂部(頭のてっぺん)でみると、後ろに動いています。
一方、頭の底、つまり関節面にあたる部分は、もちろん前ですよね。
つまり、見ている頭の場所によって表現が異なるというわけです。
もう一つここで言えることは、相対する頭の部位は対称的な方向に動くということです。
アレクサンダー・テクニークを学んだことがある方なら「頭が前に上に」というメッセージを聞いたことがあるかもしれません。
これは創始者であるF.Mアレクサンダーさんは、頭と背骨の関係を整える際のメッセージとして、「頭が前に上に」という表現を用いていたことに由来しますが、この「前や上」というのはどういうことでしょうか???
まず、動きを邪魔するパターンとして、下図に示すように頭が背骨を押し下げるといった状態であることを発見し、これに対して「前に上に」という言葉が出てきたわけです。
そして、この邪魔するパターンに対し、後頭部あたりから反時計回りの矢印を描くと、「上に前に」と表現できる感じがしませんか?
もし前頭部あたりに矢印を描くと「下に後ろに」と表現できることになりますし、関節面あたりから描くと「後ろに上に」と表現できます。
矢印は、前と上を分けて二つとして描くより、カーブした一つの矢印にし、転がる感じをイメージした方が本来の動きに近くなるように思います。
間違ってはいけないのは、頭全体が空間上において上に前にいくではないということです。
アレクサンダー・テクニークでいうところの「頭が前に上に」を理解するためには、関節の構造や位置、動き、そして、頭のどの部分のどういう動きに対して言っているのかなどを理解する必要があります。
こういった理解なくして「頭が前に上に」は意味がありませんので、私自身はレッスンでこの言葉をいきなり使うことはありません。
また全ての人が必ず「頭は前に上に」というメッセージで良いかというと個人的には少し疑問です。
F.M アレクサンダー氏が見つけた自身を邪魔するパターン(頭を後ろに押し下げるパターン)は多くの人によく見られるパターンではありますが、三次元的に動きを捉えた時に、個々によってそのパターンは多少なりとも異なります。
そして、スタート時点が異なれば与えるメッセージも自ずと異なるはずです。
そこは吟味する余地があるように思います。
ちなみに、頭と背骨の状態を整えるためには(アレクサンダー・テクニークでいうところのプライマリー・ムーブメントの獲得のためには)、ここまでの情報だけでは十分でありません。
ということで、次回はこの続きをご紹介していきたいと思います。
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